わたしから、プロポーズ
久保田さんの言葉は、私を調子づかせるには十分で、気分を良くした後は自分でも驚くくらいにお酒を飲んでいた。
「莉緒、莉緒。帰ろう」
あれ?
瞬爾の声が聞こえる。
まさかね。
みんなと打ち上げに行ったはずの瞬爾が
、ここにいるはずがないもの。
あ、そうか。
これは夢だ。
瞬爾の夢を見ているんだわ。
「瞬爾•••?」
声のする方向へ目をやると、心配そうに覗き込む瞬爾の顔があった。
相変わらず、なんてカッコイイのだろう。
間近で見ると、ますます惚れ惚れしてしまう。
「あー。本当に瞬爾だ。嘘みたい」
なんて、嘘か。
これは夢だものね。
「何、呑気な事を言ってるんだよ。飲み過ぎだぞ。送るから帰ろう」
少し怖い顔をする瞬爾に、私は笑顔を向ける。
今まで瞬爾を好きでも、なかなか夢に見る事はなかった。
それなのに、今夜は夢を見られている。
それが嬉しいのだ。
そんな私に、瞬爾は呆れた様な笑顔を浮かべると腕を掴んだ。
「ほら、立って。帰ろう」
「はーい」
足がふらつく辺り、リアルな夢だ。
それに極めつけは、久保田さんと和香子の旦那さんが見送ってくれた事。
二人とも、小さく手を振っている。
旦那さんはともかく、久保田さんがそんな事をする訳がない。
「さようならー」
夢をいいことに、適当な返事をした私は、瞬爾と店を出たのだった。
「じゃあ、タクシーを拾いに行こうか?」
瞬爾は私の肩を抱くと、ゆっくりと歩き出す。
まったく夢の中の瞬爾ってば、なんて色気がないのだろう。
どうせ夢なのだから、もっと甘い内容がいい。
不満が込み上げてきた私は、瞬爾の腕を引っ張ると、目についた細い路地へと連れ込んだのだった。
「莉緒?どうしたんだよ」
戸惑う瞬爾に思い切り抱きつく。
本当は、リアルでこうしたいけれど、それは無理だ。
それならば、夢の中で叶えよう。
体を預けた瞬爾からは、温もりも甘い香りも感じる。
そうだ。
どうせなら、もっと願望を通してしまおうか。
それこそ、リアルでは口に出せない言葉を。
「瞬爾、キスして」