わたしから、プロポーズ
「私、夢を見てるんだと思ってたの。だって、まさか瞬爾が来てくれるなんて思ってなかったから」
それじゃあ、美咲さんとのキスの話も現実だったのか。
あの時、瞬爾は誤解だと言っていた。
それは夢ではなかったということか。
「じゃあ、美咲さんの話も本当にしたのよね?」
「そうだよ。あの時、言い訳すらも聞いて貰えなかったよな。と言っても、偉そうに言える立場じゃないけどさ」
苦笑いの瞬爾は、私から目をそらした。
「夢の中で聞いても意味がないと思ったから。ごめんね、瞬爾。教えて。あの時、何て言おうとしたの?」
言い訳でも何でもいいから、聞かせて欲しい。
瞬爾の気持ちを教えて欲しい。
すると、ゆっくりと話してくれたのだった。
「美咲のピアスがベッドの下へ落ちていたのは、あいつを家に泊めたから。だけど、それは今回のプロジェクトで仕事が詰まっていたからなんだ。二人で追い込みをしてた。だからなんだけど、やましい事は何もない。俺はその夜はソファーで寝たから」
それは、間違いなく真実だろう。
小さく頷いた私を見て、瞬爾は続けたのだった。
「ピアスに気付いたのは、もっと後の事で、それを返そうと思った時、美咲からキスをされたんだ。莉緒が見た通りだよ。だけど、俺はもうあいつとはやり直す気はない。だから、それを分かってもらいたくて、別れのつもりで抱きしめたんだけど、間の悪いところを見られてたんだな」
「そうだったの?それならいいの。本当の事を確かめたかったから」
瞬爾を疑う余地なんてない。
美咲さんへの未練がないなら、もう絶対に疑ったりしない。
二度と、心が揺らぐことなどないから。
瞬爾の説明に、諦めていた期待が高まる。
もしかしたら、もう一度やり直せるかもしれない。
そんな思いに胸が高鳴った。
「瞬爾の話って何なの?美咲さんの事?」
「いや、違うよ」
「違う?」
何を根拠に胸が高鳴っているのか。
次に瞬爾から言われる言葉に、期待を寄せていた。
すると、一呼吸置いて瞬爾は言ったのだった。
「莉緒は仕事を辞めるんだな。本当に驚いたよ。俺は、春からロンドンだ。これで、俺たちは本当に終わりなんだなと思って。別れを言いたかったんだ」