わたしから、プロポーズ
瞬爾の海外赴任は4月からだけれど、3月中にはロンドンへ引っ越さなければならない。
当面は、会社から手配されたアパートメントで生活をする予定だ。
その間には私も退職になるし、新しい生活の準備は余裕で出来ると思っていた。
だけど、思った以上に時間の流れは速く、気が付いたらあっという間に3月になっていたのだった。
「式が挙げられなくて、本当にごめんな」
最終の荷造りをしていると、瞬爾がそう言って声をかけてきた。
「また、それを言う。それは言わない約束でしょ?」
元は私が結婚を迷ったせいで、式の日取りが決まらなかったのだ。
それなのに瞬爾は、自分の海外赴任のせいだと思っている。
「私は、こうやって晴れて瞬爾の奥さんになれたんだもの。それだけで十分」
そう言って、左手を上げてみせる。
私の薬指には、婚約指輪と重なって、結婚指輪もはめられていた。
もちろん、瞬爾の左手薬指にも、結婚指輪がはめられている。
「だけど、入籍も結局何でもない日になっただろ?」
「仕方ないじゃない。私の誕生日にはロンドンなんだもん。私は、正式な奥さんとしてロンドンに行きたかったから、これでいいの!」
瞬爾が、ここまで日取りにこだわるとは思わなかった。
確かに、私だってどうでもいいわけじゃない。
だけど、実際に籍を入れてみると、意外なほどに日取りなんて気にならなかった。
それは、私たちが正式な夫婦になれたという余裕からか。
それとも、迷いを捨て切れたからか。
ともかく、私自身は何も気にしてはいない。
話もそぞろに荷造りを続けていると、瞬爾が後ろから抱きしめてきた。
「ありがとう、莉緒。ロンドンも、莉緒が一緒なら頑張れる」
そして私を振り向かせると、キスをしたのだった。
「瞬爾、荷造りが終わってない•••」
唇を離してくれない瞬爾の手が胸へと伸びてきて、思わずそう言った。
これ以上何かをされると、理性が飛びそうだ。
「いいだろ?ちょっとくらい」
伸びてきた手が胸を揉む。
抑えきれない甘い声が漏れた瞬間、その場に押し倒された。
「もう夫婦なんだから、何も気にする必要はないんだ。思い切り、莉緒が抱ける」
瞬爾はそう言って、日本では最後の夢の中へと、私を連れていったのだった。