わたしから、プロポーズ
「太陽が眩しい」
目を細める私に、瞬爾は小さく笑った。
「飛行機からだと、太陽が近くに感じるよな」
「うん。すごく近い」
今、私たちは雲の上にいる。
もちろん、ロンドンへ向かう為に。
空港までは家族の他に、寿史さんや遙と広田さんも見送りに来てくれた。
みんな、私たちの結婚を心底喜んでくれていて、それが本当に嬉しかった。
「寂しくないか?日本を離れて」
「きっと大丈夫よ。瞬爾が一緒だもん」
気にかかる事が一つも無いかと言えば嘘になる。
結局、美咲さんとは直接決着をつける事が出来なかったから。
それに、久保田さんとも電話だけのやり取りで、別れてしまっていた。
「もう一度、久保田さんには会いたかったな。瞬爾との結婚を報告したら、すごく喜んでくれてたから」
なんだかんだ言って、恋の辛さをよく知っているのは、久保田さんだったのかもしれない。
「そうだな。久保田さん言ってたよ。もう一度、莉緒と仕事がしたかったって」
「本当?だったら、直接言ってくれたらいいのに」
口を尖らせると、瞬爾は楽しそうに笑ったのだった。
「それはシャクだから、言いたくなかったんだってさ」
「何よ、それ。どこまで負けず嫌いなんだか」
つられて笑いながら、思い出すのは和香子の事だ。
瞬爾との結婚を電話で報告した時、明るい声で『おめでとう』と言ってくれた。
旦那さんとは、結婚生活を続けている様で、わだかまりが溶けたのだろうかと気になるところだけど、それを確認する事は出来なかった。
だけど、信じたい。
きっと、最初の頃の二人に戻ってくれると。
この先、結婚生活で悩みが出来たら、和香子にも聞いて欲しいから。
「広田たちも、どうなるんだろうな。結婚するのかな」
考え込んでいた私を引き戻すかの様に、瞬爾が呟いた。
「うん。本当、どうなるんだろうね。私としては、そうなって欲しいけど。あ、そうそう。遙にね、いつか見たキスシーンの話をしたのよ」
カミングアウトをすると、瞬爾は目を丸くした。
「本当か!?」
「うん。今度から気をつけなよって。さすがに驚いてたよ」