わたしから、プロポーズ
左手の薬指が特別に思えてくる。
瞬爾から貰った指輪がはまっている―。
それだけで、自分が一人ではないみたいだ。
それだけではない。
今夜の美味しいはずのフレンチのコースも、正直味が覚えられなかった。
プロポーズの言葉を貰って、胸がいっぱいだったから。
そして帰りのタクシーの車内で、瞬爾は私の手を握ってくれた。
その行為自体は今さらなのに、こんなにも胸がときめくのが不思議だ。
ただの想像でしかなかった“結婚”。
それが、ようやく現実になろうとしている。
そのドキドキ感で、不思議な感覚に見舞われていた。
今なら聞きたいかもしれない。
和香子の話を…。
「結納や式の日取りは、これからゆっくり二人で考えよう。莉緒の仕事の事もあるもんな」
「え?あ、うん…」
そうか。
仕事があった。
瞬爾の口ぶりからだと、辞める事を前提にしている気がする。
「俺さ、プロポーズする今夜だからこそ、絶対に一位を取りたかったんだよ」
ふと、呟く様に瞬爾は言った。
「それって、売上成績の事よね?」
「そうだよ。少しでも、莉緒にとって男らしく見える事がしたかった。って、考える事が子供ぽいか」
苦笑いする瞬爾に、私は小さく笑うしかなかった。