わたしから、プロポーズ


今日の得意先回りは、私が初めて営業で回った会社だ。

大手リース会社で、当時の課長と同行訪問したのを覚えている。

緊張でガチガチだった私に、40代前半の担当者、木下部長が気さくに話しかけてくれたのだった。

『リラックスしてくれていいんだから』

その言葉に、すっかり肩の力が抜けた私は、以後ずっと木下部長と仲良くさせてもらっている。

深いシワと、笑うと目元が下がる柔和なルックスが印象的な、紳士的な部長だ。

「こんにちは、木下部長」

いつも通り、応接間に通された私は、木下部長の登場に笑顔をこぼす。

「坂下さん、こんにちは。今日は何かな?新製品のリースのお願いじゃないのか?」

茶目っ気たっぷりに、木下部長はさっそく、顔をくしゃくしゃにして笑った。

「リース会社様に、リースをお願いするのもおこがましいですが」

「いやいや、扱う商品が違うからな」

ソファーに座った部長は、私にも座る様に促した。

「ところで坂下さん、きみは担当を降りるなんて事はないよね?」

「え?」

今まで聞かれた事もない質問と、プロポーズ後というタイミングの良さもあってか、かなり動揺してしまった。

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