わたしから、プロポーズ
「ねえ、莉緒。伊藤課長からプロポーズされてないの?」
遥もメイクを直しながら、鏡越しに私を見た。
「うん。特に言われてない。でも、焦ってはないのよ?」
なんて、心とは裏腹な言葉が出てくる。
遥は同期で友人でもあるのだから、他意がなく聞いてきた事は分かっている。
だけど、私は知っているのだ。
周りの女性社員が、密かに私たちの破局を望んでいる事を。
だから、絶対に不安なんて見せない。
私は瞬爾に愛されている。
その自信だけを、いつも見せているのだから。
「そうなの?それならいいんだけど。ねえ、去年、結婚退職した和香子を覚えてる?今度、遊びに来ないかって誘われてるのよ」
「和香子から?」
もちろん覚えている。
同期の中でも一番頼りなさげで、おっとりした人だった。
それが、誰より先に結婚というゴールに辿り着いたのだから、みんな陰で嫌みを言ったものだ。
ただ、その中でも私だけは言えなかった。
だって言ってしまえば、それは瞬爾への嫌みになってしまうからだ。
「ねえ、莉緒。お願いなんだけど、和香子のとこへ一緒に行ってくれない?」
「ええ!?私が?だけど、かなり不自然なんじゃない?」
遥と違い、ほとんど会話もなかったのに、一緒に新居に行くというのは気が引ける。
「大丈夫よ!だいたい、和香子も莉緒と伊藤課長の事は知ってるんだし、いい機会だから自慢しちゃいなよ」