わたしから、プロポーズ
初恋の人
黒色のセダン型の車が、私のすぐ側で横付けした。
慣れた様に助手席のドアを開け乗り込むと、スーツ姿の瞬爾が笑顔を向けている。
「楽しかったか?莉緒」
「うん…。和香子、幸せそうだったよ」
どうしても目が合わせられない。
そんな私に気付いたかどうかは分からないけれど、車を走らせないで瞬爾は袋に目を向けた。
「それ、何?」
「ああ、これ?和香子からの手土産なの。手作りの花瓶かな?お花が飾られてて…」
袋から少し取り出して見せる。
「へえ。綺麗だな。いかにも、優雅な奥様のやりそうな事だけど」
そう言って笑った瞬爾は、ようやく車を走らせた。
「俺たちも結婚したら、この車は買い替えないとな。もう少し、ファミリータイプがいいよなぁ」
独り言のように呟くその言葉に、たまらず返事をしていた。
「そんな…、気が早いんじゃない?」
「気が早いって事はないだろ?結婚まで、考えないといけない事は山ほどあるんだ」
「だけど…。実際、式は3月じゃない?まだまだ先よ?」
何を迷っているのだろう。
瞬爾との結婚は、夢に見ていたはずなのに。
嬉しいばかりのはずなのに、“結婚”という言葉を口にされる度、言いようのないプレッシャーが押し寄せる。
「式は3月でも、籍を入れるのは、もっと早くてもいいんじゃないか?」