わたしから、プロポーズ
「え…?」
私の質問に、瞬爾は少しだけ目を向けた。
だけど、再び視線を戻したのだった。
「顔合わせの日、私に仕事を辞めて欲しいみたいな事を言っていたでしょ?」
「ああ、言ったよ。どうしてかって、そりゃ奥さんには家にいてもらいたいからだよ。莉緒はそれが嫌なのか?」
「嫌ってわけじゃ…」
ないわけもない。
だけど、それは言えなかった。
そして瞬爾も、それ以上何も言わなかった。
無言の車内のまま、マンションへ着いた時には、すっかり気持ちが疲れてしまっていた。
『新鮮なの』
和香子の言葉が身に染みる。
毎日、当たり前に過ごしていたこの場所で、結婚をした後に待っている日々は、ただ瞬爾を待つだけの日々。
それを想像するだけで、未来がこんなにも色褪せて見えるなんて…。
“結婚はリアル”
それを、今さらながら知った気がする。
「莉緒、行こう」
瞬爾に手を差し出されて、自分が駐車場で立ち止まっていた事に気付く。
未来が色褪せて見えるからといって、この手を拒否する勇気はない。
瞬爾を好きだという気持ちには、何一つ変わりはないのだから。
だけど、気持ちが乗り切れない。
ゆっくりと手を伸ばすと、瞬爾がその手を引っ張ってくれた。