わたしから、プロポーズ


「え…?」

私の質問に、瞬爾は少しだけ目を向けた。

だけど、再び視線を戻したのだった。

「顔合わせの日、私に仕事を辞めて欲しいみたいな事を言っていたでしょ?」

「ああ、言ったよ。どうしてかって、そりゃ奥さんには家にいてもらいたいからだよ。莉緒はそれが嫌なのか?」

「嫌ってわけじゃ…」

ないわけもない。

だけど、それは言えなかった。

そして瞬爾も、それ以上何も言わなかった。

無言の車内のまま、マンションへ着いた時には、すっかり気持ちが疲れてしまっていた。

『新鮮なの』

和香子の言葉が身に染みる。

毎日、当たり前に過ごしていたこの場所で、結婚をした後に待っている日々は、ただ瞬爾を待つだけの日々。

それを想像するだけで、未来がこんなにも色褪せて見えるなんて…。

“結婚はリアル”

それを、今さらながら知った気がする。

「莉緒、行こう」

瞬爾に手を差し出されて、自分が駐車場で立ち止まっていた事に気付く。

未来が色褪せて見えるからといって、この手を拒否する勇気はない。

瞬爾を好きだという気持ちには、何一つ変わりはないのだから。

だけど、気持ちが乗り切れない。

ゆっくりと手を伸ばすと、瞬爾がその手を引っ張ってくれた。

< 46 / 203 >

この作品をシェア

pagetop