わたしから、プロポーズ
自慢しちゃいなよって、一体何を自慢しろというのか。
だいたい、瞬爾とのノロケ話は、社内ではしないと決めている。
それもこれも、瞬爾からプロポーズの言葉を貰う為。
絶対にがっついたり、人の嫌みを言ったりしないと決めているのだ。
「ねえ、お願い!私、和香子が苦手なのよ」
遥は懇願する様に、両手を顔の前で合わせている。
「苦手なら断ればいいでしょ?」
呆れてため息が出た。
和香子が苦手なのは、私も一緒だ。
喋り方がおっとりな上、あの天然キャラで新婚生活をノロけられてはたまらない。
正直、プロポーズ待ちの私には、それは苦痛でしかないのだ。
「苦手だから、断れなかったんじゃない。ねえ、いいでしょ?」
眉を下げて、遥はすがる様に見た。
「分かったわよ。仕方ないわね。だけど、これきりだからね?」
渋々、受け入れると、遥は表情を明るくした。
「ありがとう!本当、良かったわ。和香子と最後に、連絡先を交換したのが間違いだった」
大きくため息をつく遥に、苦笑いをしながら化粧室のドアを開けた時、ちょうど瞬爾が同じ課の営業マンと歩いているところへ出くわした。
「あっ、伊藤課長。お疲れ様で~す!」
私の代わりに愛想たっぷりで挨拶をした遥に、瞬爾は感じ良く「お疲れ」と返している。
そして、私には小さな笑みを向けると、そのまま足早に会議室へと入って行ったのだった。