わたしから、プロポーズ
“婚約者”という名の圧力
日中の営業部のオフィスは静かすぎるほどで、電話もほとんど鳴らない。
事務方の女性社員が3名と、瞬爾たち課長クラスや部長が居るだけで、会話が筒抜けになる程だ。
ただ、夕方以降は別で、外回りから帰ってきた営業の人たちで賑やかになるのだった。
「莉緒!何だか今日は、朝からソワソワしてない?もしかして、伊藤課長とデート?」
同じく外回りから帰ってきた遥が、これみよがしに声をかけてきた。
「そんなんじゃないわよ。遥の気のせいだって」
全く、きわどい言い方をオフィス内でしないで欲しい。
どこで瞬爾に聞かれているか分からないのだから。
それにしても、そんなに態度に出ていたのだろうか。
今夜は、ヒロくんと会う約束をしている。
もちろん、英語の勉強でだ。
中心地から少し離れたカフェでの待ち合わせにしているから、瞬爾にバレるリスクはないはず。
まるで“密会”の様な約束に刺激を感じるのか、朝からずっと楽しみではあった。
それは認めるけれど、それが態度に出ているとは自分でも情けない。
「絶対に課長とデートだと思ったのに。そうそう、課長といえば、さっき変な事を聞かれたのよね」