わたしから、プロポーズ


軽い調子で流れるJ-POP。
夜のカフェは意外に人が多く、読書をする人やタブレットで仕事をしている人が目についた。

「莉緒、どうかした?元気がないけど」

約束通り、ヒロくんとカフェで待ち合わせをし、そのままここで勉強をしている。

だけど、頭にはほとんど入らず上の空になっていた。

「ううん。ごめんね。ちょっと、仕事疲れかな」

苦笑いを浮かべると、ヒロくんも小さく苦笑いをした。

「無理しなくていいんじゃないか?それとも、語学が何か必要に迫られているとか?」

「ううん。ヒロくんと再会して、ロンドンの話をしていたら思い出しただけなの」

小さな身の程知らずの夢を思い出しただけ…。

すると、ヒロくんは小さくため息をついた。

「莉緒、もしかして誰かからの連絡を待ってる?」

「え?」

「さっきから、携帯を気にしてるだろ?」

ヒロくんに指摘されて、携帯に手をかけていた事に気付いた。

いつの間にか無意識に、携帯へ手を伸ばしていたらしい。

それは紛れもなく、瞬爾からメールが来ていないかを確かめる為だ。

実は今夜のヒロくんとの約束を、瞬爾に話す事は出来なかった。

だから、素っ気なくメールで『今夜は遅くなるね』としか伝えていない。

いつもなら、絶対に返事を返してくれるのに、今夜は返事が来ていないのだ。

仕事はもう終わっているはず。

だから、返事を返してこないのは、瞬爾からの無言の怒りに思えてならなかった。

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