わたしから、プロポーズ


慌ててカバンから携帯を取り出すと、ヒロくんが吹き出す様に笑った。

「やっぱり、誰からの連絡を待ってたんだな。じゃあ、俺は先に帰るよ。莉緒、気をつけて」

「あ、ありがとう…。またね。ヒロくん」

さすが、ヒロくんだ。

誤魔化したってお見通しな上、気を遣って先に帰ろうとしてくれる。

だけどヒロくんは、身を翻したかと思うと、すぐに振り向いた。

「本当なら、次に会えるのは木下部長の送別会だったんだよな。それが今日、こうやって会えて嬉しかったよ」

そう言って笑顔を残したヒロくんは、人混みへと消えていった。

「ヒロくん…」

淡い初恋を思い出しながらも、やっぱり気持ちは瞬爾に向く。

気がはやる中、メールを確認すると、それは単なるメルマガだった。

「もう~、ムカつく!」

ため息と一緒に、自分へもメルマガへもイライラとしてしまった。

瞬爾からだと思って、胸を高鳴らせた自分が情けない。

ため息をもう一つ、携帯をカバンにしまう。

そしてネオンが輝く街を歩きながら、夜空を見上げてみたけれど、星なんて一つも見えなかった。

それどころか、ビルからのネオンが眩し過ぎて夜空すら明るく見える。

「私の未来も、見えなくなってきたのは何でだろう…。もっと眩しく見えるものがあるのかな?」

ただ当てもなく歩いていると、いつの間にか会社のビルの前へ着いていた。

< 62 / 203 >

この作品をシェア

pagetop