わたしから、プロポーズ
無意識に足が会社に向いていたのかと思うと、苦笑いが出る。
「瞬爾、まさかまだ会社にいるわけないよね?」
いくら課長職とはいえ、もう23時をまわる時間だ。
決算期でもないのに、会社にいるわけがない。
そう思ったけれど、どこか気になってエレベーターへ向かっていた。
昼間とは違い、さすがにビル全体も静かだ。
後もう少しで、正面玄関はロックがかかる。
裏門から出ないといけなくなる煩わしさを避ける為、他の企業の人たちも、この時間にはほとんど帰るのが普通だった。
だから、瞬爾もいるはずがない。
そう思うのに、吸い寄せられる様にフロアに着くと、廊下までこぼれる明かりが目につき、緊張が高まった。
ゆっくりと歩きながらドアまで着くと、そっと中を覗く。
すると、そこには一人黙々とパソコンを打つ瞬爾の姿が見えたのだった。
「瞬爾!?」
本当にいた。
その事に感動する自分がいる。
瞬爾に対しても、私は言葉に出来ないインスピレーションがあるらしい。
思わず呼びかけてしまった声に驚いたらしく、瞬爾は素早くこちらに目を向けた。
「莉緒!?お前、どうしてここに?」
立ち上がった瞬爾に向かって、ゆっくりと歩く。
「何だか、まだ会社にいる様な気がして来ちゃった」