わたしから、プロポーズ


二人きりのこの場所は、朝には騒々しくなる。

そんな場所で、こんなキスをしている事が信じられない。

少し呼吸が乱れた頃に、瞬爾が唇を離した。

だけど、体は強く抱きしめたままだ。

「瞬爾、ここ会社だよ」

「いいじゃないか。だって、今は誰もいない」

髪が乱れるほどに、そして甘い瞬爾の香りが移るほどに、強く強く抱きしめられる温もりから、溢れるほどの愛を感じる。

この温もりを永遠のものにしたくて、結婚を夢見ていた。

それを迷うというのは、怖いからなのか。

夢が現実になる事に、怯えている…?

自分の心が曖昧なまま、瞬爾の胸に身を預けていると、耳元で囁かれたのだった。

「早く帰ろう、莉緒。二人きりになりたい」

「うん…」

ここだって今は、二人きりだよ。

そう言おうとして、言葉を飲み込んだ。

そんな色気の無い言葉を、言う必要はない。

瞬爾が言いたい意味は、もっと刺激的な事なのだから。

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