わたしから、プロポーズ
心の溝
こういう本格的なケンカをしたのは初めてだ。
だから、今日ほど同棲をしていて後悔した日はない。
あの会議室でのやり取りの興奮も冷め切らない内に家へ戻った私は、瞬爾から貰った指輪を眺めていた。
確かに、これを貰った時は嬉しかったし、涙も出た。
それなのに、あっという間に瞬爾との未来にモヤがかかった様に、私は結婚を楽しみに出来なくなっている。
「どうしてなの…?瞬爾を好きな気持ちには変わりないのに」
この指輪が、ただ私を束縛する物にしか見えない。
幸せが約束される物のはずなのに…。
「そんなにはめるのが嫌か?」
背後から瞬爾の声がして、本気で驚いて振り向いた。
一体、いつの間に帰ってきていたのか。
そんな私の様子に気付いた瞬爾は、小さくため息をついたのだった。
「俺が帰って来たのにも気付かなかった?」
その顔はどこか寂しそうで、私の離れそうになる心を引き止める。
「ごめんね。ちょっと、ボーッとしてた」
まともに顔を見られないまま、持っていた指輪を瞬爾に取られる。
そして、そのまま左手の薬指にはめられたのだった。
「莉緒、教えて欲しい。俺との結婚を迷っているなら、その理由を教えてくれないか?」
「えっ?それは…」
やっぱり、瞬爾は気付いていた。
こんなにハッキリと言われてしまい、答え様のない私ははめられた指輪を見つめる事しか出来なかった。