わたしから、プロポーズ
心が離れたのかと自分でも思うほど、瞬爾に失望する自分もいれば、思いがけない元カノの登場に嫉妬をする自分もいる。
会社では周りの目を気にしなければならない私たちも、自宅へ戻れば二人きりだ。
いろいろ突っ込んで聞きたいところだけれど、どうしても聞けなかった。
キッチンで水を飲む瞬爾の背を見つめてみたけれど、やっぱり問いただす勇気がない。
それは、事実を知りたくないというよりは、自分にも後ろめたさがあるからだった。
「ねえ、瞬爾。明日ね、木下部長の送別会があるの。呼ばれてるから、行ってくるね」
怖ず怖ず言うと、瞬爾は背を向けたまま、「ああ、分かった」と答えただけだった。
素っ気ない返事に、傷つく自分が嫌になる。
瞬爾を傷つけているのは自分なのに、冷たくされると傷ついて、私は一体何がしたいのだろう。
「それから…、今日おめでとう。F企画とのコラボ、凄いね。その為に今朝は早く出たんだ?」
すると、瞬爾はようやく振り向いて、小さな笑顔を浮かべたのだった。
「ありがとう。これで、一つ胸が張れる事が出来た感じだよ。といっても、自分だけの力で掴んだチャンスじゃないけどな」
「そう…。だけど、本当に嬉しそうね。F企画って会社に、何か思い入れがあるの?」
私としては、美咲さんの探りを入れたつもりが、瞬爾にはサラっと返されただけだった。
「いいや。特別何かあるってわけじゃないよ」