わたしから、プロポーズ
瞬爾から、はめなくていいと言われ、箱にしまったままの指輪を取り出した。
「やっぱり、はめてみようかな」
指輪をつけていれば、少しは分かるだろうか。
心の迷いの原因が。
左手薬指を見つめていると、ドアが開いて瞬爾が入ってきた。
「どうしたんだ、莉緒?指輪なんかはめて」
苦笑いする瞬爾は、私より先にベッドへ潜り込んだ。
瞬爾にとっては、すっかり私が指輪をはめていない姿が普通になっている。
「うん…。ちょっとはめてみただけ」
本来なら、つけているのが当たり前の指輪なはずなのに。
慣れないせいか、若干の違和感を覚えつつも、ベッドへ潜った。
自分で作った心の溝は、瞬爾の婚約者であるという自覚が芽生えれば、埋められていくものなのだろうか。
そんな事を考えながら目を閉じると、ふんわりと唇に触れられる感触がした。
それは、瞬爾の唇で、当たり前の様に私の唇に重なる。
そして、少しずつ首筋から胸元へと移動してくるキスに、自然と甘い声が漏れていた。
体を重ね合う事には、まるでぎこちなさを感じない。
指輪をはめたまま、瞬爾の体に手を回した。
その瞬間、ほんの少しだけ見えた気がする。
瞬間の婚約者である“私”が…。