わたしから、プロポーズ
元カノの挑発


瞬爾が、F企画との仕事の契約を正式に結んだ。

次回のファッションショーの主催企業として、資金面の提供の見返りに、VTRや照明といった“モノ”に対して、全てうちのメーカーの製品を使ってもらうという条件での正式契約だった。

メディアでも報道されるショーだけに、製品が使われるだけでかなりの宣伝になる。

そんな瞬爾の成功を、心から喜べない自分がいた。

それは、同じ仕事をする人間としての妬みなのか、それとも元カノとの接点が心配なのか…。

どちらだろうと考えたら、その両方が正解な気がする。

海外赴任の話も聞けていないし、心のつかえが増えるばかりだった。

「おい!坂下。もう帰るのか?」

エレベーターへ向かう途中、背後から寿史さんが声をかけてきた。

「はい、今日は木下部長の送別会があるので…」

「ああ、なるほどね。“ヒロくん”がいるとこか」

わざわざ声をかけてきたかと思えば、こんな嫌みを言うなんて。

恨めしげに睨むと、寿史さんは肩をすくめた。

「実は今夜は、一課の祝いに誘われててさ」

「お祝いですか?今回の仕事の件の?」

「ああ。だから、坂下も来るのかと思ったんだけど、無理ぽいな」

そんなお祝いの話、今初めて聞いた。

一体、いつ決まったというのだ。

「飲みに行かれるんですか?」

「ああ。F企画さんのオススメの店にね」

「F企画?」

まさか、美咲さんもいるっていう事?

考え込んだ私に、寿史さんは小さくため息をついたのだった。

「心配なんだろ?内田さんの存在が」

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