わたしから、プロポーズ
“違う”と言えない。
だけど、認める事も出来なかった。
「さっき、その内田さんから、瞬爾のところへ今夜の誘いの電話がきたんだよ」
「えっ?美咲さんからですか?」
「そうだよ。まだ二人がコソコソ会わない内に、手を打っといた方がいいんじゃないか?」
寿史さんの言い方だと、まるで瞬爾が浮気をする様な言い方だ。
それとも、寿史さんから見ても、私たちの関係には溝があると分かるのだろうか。
「でも、今夜は前から決まってた事です。それに、木下部長にはお世話になりましたから」
そう言って、エレベーターのボタンを押す。
すると、扉はすぐに開いたのだった。
「やけに自信があるんだな。坂下、瞬爾のお前に対する気持ちって、揺るがないものだと思ってるんだ?」
エレベーターへ乗り込んだ私に、寿史さんはあからさまに挑発してきた。
その言葉は、胸に突き刺さる。
寿史さんの言う通り、瞬爾はいつまで私を受け止めてくれるのだろうか。
一番痛い所を指摘されて、返す言葉もない私は、そのまま扉を閉めた。
速いスピードで降りていくエレベーターの中で、バッグから指輪を取り出す。
会社ではめるには恥ずかしくて、バッグに忍ばせて来たのだった。
「私だって、瞬爾を失いたいわけじゃない」
それを左手薬指にはめると、ジャケットの衿を正す。
ヒロくんに会いたいのは、昔を懐かしみたいだけ。
ただ現実逃避をしたいだけなのだ。