わたしから、プロポーズ


エレベーターに乗っている間、瞬爾は私の手をずっと握ってくれていた。

それを嬉しく思うのは、きっとそこに美咲さんがいるからだ。

元カノである美咲さんの前で手を握られるのは、かなり嬉しかった。

それは、間違いなく彼女に対抗意識を燃やしているからだと思う。

そんな事を感じていると、エレベーターは5階に着き扉が開いた。

雑居ビルの中の店とは思えないくらい、和風の感じの良い入口が見える。

モダンな和風とでも言うか、磨りガラスの引き戸 を開けると、騒がしい人の声が聞こえてきた。

そして店内に入るとすぐ、奥の座敷から「坂下さ~ん!」と手を振る木下部長の姿が見えた。

「あっ部長」

と、目をやった途端もう一つ飛び込んできたのは、そのグループの隣にいる集団だ。

そこには寿史さんや遥までいて、ニヤニヤしながら手を振っている。

どうやら、うちの会社は隣の座敷らしい。

それには瞬爾と美咲さんも驚いた様子で、戸惑いを見せながらも、瞬爾は私と一緒に木下部長の元へ行ったのだった。

「いつもお世話になっています。伊藤です」

スマートに会釈をした瞬爾を見て、木下部長はご機嫌良く笑ったのだった。

「いえいえ、世話になったのはこちらです。それにしても、坂下さんも水臭いな。こんな素敵な婚約者がいる事を黙ってたなんて」

それには私も苦笑いだ。

そして部長の隣では、同じく苦笑いのヒロくんが立っていたのだった。

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