わたしから、プロポーズ
「はぁ~。何だか疲れる」
飲み会も終盤に差し掛かった頃、一人化粧室でため息をつく。
部長とヒロくんに会えるのは楽しいけれど、隣のグループに瞬爾がいると思うと気になって仕方なかった。
結局、頭の中の半分以上は、瞬爾で埋められているのだから。
鏡に映る自分の顔を見てみると、心なしか覇気がない。
「本当、嫌になる…」
と、もう一つため息をついた時、
「何が嫌になるの?」
美咲さんが化粧室へ入って来たのだった。
「美咲さん…。いえ、何でも」
タイミング悪く独り言を聞かれていたらしい。
それにしても、だからといって声をかけてくる美咲さんも美咲さんだ。
「ふ~ん。だけど、坂下さんの顔は、“何でもない”って感じには見えないけどね」
「だとしても、美咲さんには関係ないですから」
何か感じ悪いな。
いちいち、私に突っ込まなくてもいいのに。
手を洗って出ていこうとした私を、美咲さんは呼び止めたのだった。
「関係ないって事はないのよね。さっきから坂下さん、瞬爾ばかり見てるでしょ?」
気が付いていたとは…。
図星な指摘に言い返せなかった。
「瞬爾から、聞いてるの。あなたが結婚を迷い始めてるって」
「え?瞬爾から…?」
何で、そんな大事な話を美咲さんにするのだろう。
一瞬にして怒りが込み上げる。
「実は瞬爾と私ね、昔付き合ってたの。だから言わせてもらう。結婚に迷ってるなら、やめた方がいいんじゃない?」