【短編】彼女の秘密と僕の憂鬱
それからの俺は、いっそう受験勉強に打ち込んで、無事に前期で志望校に合格した。
とりあえず学校に報告に行き、帰ろうと思って靴を脱いだところで、声をかけられた。
「ねぇ、ちょっとだけいい?なんか用事ある?」
「いや、ないですけど。」
それじゃあちょっと話しましょ、と可愛く言葉を溢すと、どんどん歩いていってしまったので、俺は急いで追いかけた。
彼女に久しぶりに会ったこともあって心が揺れたが、気づかないふりをした。
次々と報告にきていた生徒たちもほとんど帰り、校舎内の人はまばらだった。
彼女は多目的室のドアを開けて人がいないのを確認すると、
「入って」
と微笑んで言った。
それからは、合格おめでとうだとか、いつ向こうに行くのだとか、当たり障りのない会話をした。
でもきっと、他に本当に言いたいことがあるんだろうと、俺は勘ぐった。
少し沈黙が続いたところで、彼女が再び口を開いた。
「あのね、私…別れたんだ。彼氏と。」
「あ、そうなんですか。」
「本当に俺のこと好きなのかって言われちゃった。好きだったけどな…ちゃんと。」
「それで俺を呼んだんですか。」
「…え?」
「俺にその人の代わりしろっていうんですか。」
「ちっ、違うわよ。そんなんじゃないわ。」
動揺してるのがバレバレなのに何言ってるんだこの人は。
「もうこの関係終わりにしませんか。俺もこっちにはいなくなるし、このままずるずる引きずるのは嫌なんで。」
そう言って彼女を見ると、
静かに涙を流していた。