A-YA-KA-SHI☆バスター!!【Ⅱ】
☆  ☆  ☆




 運命に逆らおうなんて、これっぽっちも思っていなかった。
 美樹も、不思議と穏やかな表情で、その光景を見つめていた。
 リュウとアヤカシから、同時に衝撃波が放たれる。
 轟音が耳を貫いても、美樹は動じなかった。
 この世界の理を。
 そして、アヤカシの世界の理を。
 歪めるつもりも、無視するつもりもない。
 ――・・・ただ。
 自分じゃない誰かの存在を大切に思う、そして守りたいと思う、それが欲望だとは断じて思わなかった。
 人間としてそれは、ごく自然で当たり前の感情なのだ。
 この世界に生まれて、彩に出会って。
 悠と諒に、出会って。
 自分が何なのか、やっと分かった気がした。


「・・・・・・」


 美樹は、目を閉じる。
 その身体の中に、無限の空間が広がるような感覚を覚えた。


「美樹ー?」


 マリは、そんな美樹を見て、少し驚いたように呼びかけた。


「運命か」


 目を開けてそう呟いた美樹に、アキラとマリはあからさまに怯えた表情を浮かべた。


「みっ・・・美樹ぃー!?」
「あんた誰だよ!?」


 腰を抜かしそうになりながらそう聞くアキラに、美樹は背筋を伸ばし、心持ち顎を上に向けて視線を送る。


「我に名はない。好きに呼ぶがいい」


 怯えながら抱き合うアキラとマリから視線を外し、それはアヤカシとリュウ、彩がいる空間に目を向けた。
 その表情は、いかにもこの状況を楽しんでいるかのような、穏やかなものだった。


「本来なら我はこの程度で動いたりはしないのだが・・・人間もアヤカシも、愛でるに等しい存在」


 美樹の姿を借りたそれは、心持ち目を伏せて、そう呟いた。


「ほんの少しだけ、我も介入するか。お前たちが言う、運命というものに」


 アキラとマリには、それが一瞬、瞬きをしたようにしか見えなかった。


「運命に翻弄される小さき者よ。我は十二分に楽しませてもらった。生あるうちに再び見(まみ)える事はないだろうが・・・そちらの言う歪みとやらに、運命がどう動くか」


 美樹の姿を借りたそれは、心持ち唇を釣り上げて笑う。


「信じるがいい。運命とやらを」


 そう言った途端、美樹の身体から、力が抜ける。
 砂浜に倒れた美樹を抱き起こしながら、アキラとマリは顔を見合わせた。


「ねーねー、この人ー、今、何したの?」
「わかんねぇよ・・・だけど、マジで凄かったなぁ」


 そんな会話を交わし、二人はリュウとアヤカシの戦いの最後の攻防を見守るべく、海の方に視線を戻した。 
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