イジワル同期の恋の手ほどき
§ はじめてのお弁当 §
「おはよう」
車内に宇佐原を見つけて微笑む。
ひとつ前の駅から乗ってくる宇佐原は、特急も止まるのに、「混むから」という理由で各停を使っている。
約束しているわけではないのに毎日同じ電車に乗り、寝坊した日でも偶然同じ電車になることもあるから不思議。
「目の下にクマができてるかと思ったけど、ちゃんと寝られたのか」
私より頭ひとつ分背が高い宇佐原が、身をかがめて小さな声で聞く。
「当然でしょ」
ささやくように返した。
その後は、いつものようにお互いに新聞を読み、ほとんどしゃべらない。
乗り換えの駅まで二十分、乗り換えてから五分で職場の最寄り駅につく。
あまり親しくない職場の人と通勤途中に出会ったら、必死に会話を探すはめになるけれど、宇佐原相手だとそんな心配は全然ない。
沈黙がお互いにまったく、苦痛じゃない。
改札を出て、宇佐原が定期券をスーツのポケットにしまったのを見届けて、意を決して立ち止まった。
「宇佐原、はいこれ、約束のお弁当……」
おずおずと、小さな手提げバッグを差しだすと、宇佐原が満面の笑みを浮かべる。
「お、さっそく作ってきたな。で、自信のほどは?」
「まあ、八十点くらいかな?」
「大きく出たな? 昼休みが楽しみだ」
にやりと笑う、どこまでもえらそうな宇佐原。
生まれて初めて作った誰かのためのお弁当を、とりあえず無事に渡せてほっと息をつく。
宇佐原相手でもこんなにドキドキするのに、泉田さんにお弁当なんて、本当に渡せるの?
そんなことを立ち止まって考えていたら、数メートル先で宇佐原が振り返った。
「おい、どうかしたのか?」
「なんでもない」
大声で返事をして、慌てて宇佐原を追いかける。