イジワル同期の恋の手ほどき
今年の春、二年先輩の泉田さんが隣の営業一課に異動してきた。
一番惹かれたところは、どれほど仕事が立て込んでも、一つひとつ落ち着いて着実に処理していく姿。
なにかトラブルが発生しても冷静に対処するので、一見のんびり仕事をしているように見えるけれど、冷静な彼だからこそ大事に至らず済んだ案件も多いのだ。
どんなときでも動じない泉田さんは、私が自分もそうなりたいと願う、理想の働き方を体現している。
おまけに誰にでも親切で、十人並みの私にも優しく接してくれる。
深い意味はないとわかっていても、とびきりの笑顔で微笑まれたら、胸が高鳴る。
仕事で会話するときはもちろん、「おはよう」と挨拶を交わしただけでドキドキして、その日は一日、いいことが起こりそうな気がする。
もちろん、こんなふうに思いを寄せているのは、私だけじゃない。
穏やかさとクールさを持ち合わせている泉田さんは、多くの女性社員の心を引きつけている。
当然のことながら、職場の飲み会ではいつも、女子力の高い子たちが四方をがっちり固めている。
ちょっとうらやましいと思うけど、そんな場に自分から割り込んでいく勇気も度胸も私にはない。
だから泉田さんに気持ちを伝えるつもりなんかなくて、ただ遠くから見ているだけで満足なんだと自分に言い聞かせていた。
そんな私を見かねてなのか、外野の宇佐原は事あるごとに、「好きならなんとかすれば?」とうるさい。
宇佐原みたいに誰からも好かれて、これまで思い通りの恋愛をしてきたモテる男には絶対にわかってもらえないのだ、モテない女子の悩みなど。