イジワル同期の恋の手ほどき

出張から帰って泥酔した翌日も眠い日も、お弁当修業は毎日続けていた。
私は案外凝り性で一度はまったら、とことんのめり込むタイプだ。
今のモチベーションは宇佐原をぎゃふんと言わせることだけど、それがなかなかうまくいかない。

″肉じゃが、少し甘い″
″フルーツで、隙間埋めるのは反則″
″レパートリー、もっと増やせ″

宇佐原の注文は際限なく続いて、いいかげん飽きてきた私は、通算十個目のお弁当で小さないたずら心を起こした。

「うわっ!」

昼休み、宇佐原が開けたばかりのお弁当の蓋を慌てて閉めた。
それを見て、思わず噴き出す。
その途端、宇佐原が険しい目でこっちを睨みつけた。

「お弁当、どうかした?」

泉田さんが、宇佐原のお弁当をうしろから覗き込んでいる。

「いえ、別に」

宇佐原は蓋で隠しながら、口ごもった。
ふふふ、一発逆転。
密かにほくそ笑んでいると、怖い視線が飛んできた。
そして、この日の感想メモにはこう書かれていた。

″なんだよあれ。味以前の問題だ!″

その日の午後、廊下ですれ違った時、腕を掴まれ、人気のない隅へ連れていかれた。

「どういうつもりだ。あやうく、泉田さんに見られるところだったんだぞ」

「だって、インパクトがないって言うから、ちょっと遊んでみただけ。彩りきれいだったでしょ!」

横を向いて舌を出す。
いつもは強気の宇佐原が、たじたじになっているのは、ちょっといい気味。
ご飯の上に、ピンクのデンブで、大きなハートマークを描いたのだ。

「やっぱり、ダメだった?」

「明日はまともなの、作ってこいよ」

宇佐原の捨て台詞は、やけにえらそうだったから、逆に闘争心に火がついた。
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