イジワル同期の恋の手ほどき
翌日は、ちょっと工夫してみた。
これなら、考えないとわからないはずと、昼休みの宇佐原をじっと観察する。
お弁当の蓋を注意深く開け、しばらくじっと見つめていると―――。
「ふふ。なにをそんなに、見てるんだ?」
やっぱり、通りがかりの泉田さんが、笑いながら宇佐原のお弁当箱を覗き込む。
「いえ、なんか書いてあるもので」
怪訝な顔でお弁当箱を凝視している宇佐原。
「どれどれ?」
泉田さんがお弁当箱にさらに顔を近づけた。
「アルファベットの〝I〟かな?」
泉田さんが眉間にきゅっとしわを寄せて首をかしげる。
「いや、数字の〝1〟かも?」
宇佐原もご飯に書かれた文字を真剣に見つめている。
大の男がふたりでお弁当箱を覗いている姿は、それだけで滑稽だった。
「〝I〟ってことは、私……?」
宇佐原が、ますます首をかしげる。
そんな宇佐原がおかしくて、笑いをこらえるのに必死だった。
「あっ、わかった、『私を食べて』って意味じゃないか?」
思いもよらない泉田さんの解釈に、宇佐原と私は同時に真っ赤になる。
違う、絶対にそんな意味じゃないからと大声で叫びたいのをこらえて、下を向いて自分のお弁当をがつがつかきこむ。
「そんな、大胆なこと言う奴じゃないんで」
宇佐原がもごもごと言い訳している。
「ハハハ、そっか、じゃあ、ラブの〝愛〟ってことじゃないの?」
突然、泉田さんが大きな声で笑うと、宇佐原の肩をポンと叩く。
さすが泉田さん、「ご名答」と心の中で称賛する。
「えっ!」
宇佐原は目を白黒させて、絶句している。
「やるねえ、宇佐原。毎日、誰に作ってもらってるんだ? お弁当で愛の告白かあ。ラブラブだな」
見る間に、真っ赤になる、宇佐原の横顔。
なかなか見られない、貴重な表情を見ることができて、『私の完全勝利』だと、心の中で思わずガッツポーズしていた。
昼休み終了間近に、またもや宇佐原に捕まり、こっぴどく叱られる。
「おまえ、いいかげんにしろよ。恥かいたじゃないか」
余裕をなくした宇佐原の顔が、おかしい。
「だって、いつまでも合格点くれないから」
「そういう問題じゃないだろ。じゃあ、明日で最後にするから、まともなの作ってこい」
「はぁ~い」
この時、「やっとお弁当作りから解放される」ただそのことだけしか考えていなかった。