イジワル同期の恋の手ほどき
シメは石焼ビビンバと決まっていた。
ビビンバをかき混ぜて、お碗に取り分けるのは宇佐原の担当だった。
黙っていてもコチュジャンの量までわかっている。
「ほれ、わかめスープもやる」
「やった」
宇佐原は相当、できあがっていた。
「なあおまえ、焼き肉を食べる仲って、どう思う?」
「ええっ、どうしたの急に?」
「よく世間で言うじゃないか、焼き肉を食べるのは男女関係があるカップルだとかいうやつ」
「うん、聞いたことあるけど。そんなのいろいろじゃないの?」
「おまえはどう思ってるのか、聞いてるんだ」
「どうって?」
宇佐原の質問の意図がいまいちのみ込めず、首をかしげた。
「俺と焼き肉屋にいるところ見られたら困るか?」
「なんだそんなこと気にしてたの? 全然、困らないよ」
「職場の奴らに見られてもか?」
「だいたい、職場のみんなは私たちの腐れ縁のこと知ってるし、それに別にどう思われたっていいじゃない」
宇佐原は気にするのかな。私と焼き肉を食べてること。気になっている女の子に見られたら。
「泉田さんに勘違いされてもか?」
「泉田さんは、そんなこと勘ぐる人じゃないよ」
「泉田さんは憧れの王子様なんだな、おまえの中では」
そんなことを言うから、思わず噴き出してしまう。
「王子様ってなに? ああでも、たしかにあたっているかもしれないね。泉田さんと焼き肉食べるところとか、全然想像できないもん」
笑いながら言うと、宇佐原がさらに続ける。
「だったら、ドライブは?」
なんかやけに宇佐原がからむ。
そんな架空の話してもしょうがないのに。
「うーん、それもなんか、実現の見込みが限りなくなさそう。泉田さんは私にとってアイドルなのかもね」
宇佐原がじっと見つめる。
「どうかした?」
宇佐原の瞳が潤んでいるように見えて、「ちょっと、飲みすぎじゃない?」と聞いた。
それからも宇佐原はどんどんアルコールを注文し、店を出るころには泥酔していた。
宇佐原がこんなに酔っぱらうなんて珍しい。
いつもはセーブしながら飲んでいるのに。