イジワル同期の恋の手ほどき
§ 本当に好きな人 §
週明け、オフィスに入ると、いつもはあまり話さない男性社員から声をかけられた。
「木津ちゃん、土曜日、見たよ」
数人の男性社員がにやにやしながら、周りに集まってくる。
「えっ、なにを?」
「またまたあ、とぼけてもダメ。夜遅くに、モールの植木のところに座ってたでしょ、男と」
「あ……」
「あれ、誰? なんか、寄り添ってキスしてなかった?」
慌てて手を振り、「キ、キスはしてないから」と全面否定する。
「ふ~ん? でも、親密そうにくっついてたよね?」
「あれは、友達が寝ちゃって……」
「友達ねぇ? あの時間帯って、終電ギリギリだったけど、あの後どうしたの? もしかして、お泊まり?」
ヒュー、一斉に男性たちからはやしたてる声があがる。
「違うよ。タクシーで、ちゃんと帰ったから」
「あ、そっか。おうちにお泊まりだったんだぁ」
私はしどろもどろになりながら、必死で説明する。
「違うってば、家の前まで送ってもらって、そのまま帰ったの」
「嘘だぁ、そんなお行儀のいい男いる?」
「だって、親友だし、それにすごくいい奴だし」
そこへ、総務課から戻ってきた宇佐原が、月世に状況説明を受けるや、話に割って入った。
「ああ、それ、俺だわ。長距離運転で疲れてて、酒が思いのほか回って、寝ちゃったんだ。それで、こいつに迷惑かけちゃって」
「あれあれ? 仲いいからって、かばわなくても」
「いや、ほんとのことだし。なぁ木津、家まで送って、すぐ帰ったよな?」
宇佐原の顔を見てほっとして、こくこくとうなずく。
「なぁんだ、つまんない。木津ちゃんの浮いた話が聞けると楽しみにしてたのに、兄貴の登場か」
「でも、長距離って? まさか、二人でドライブとか?」
鋭いツッコミに、ぎくっとする。
すると宇佐原がすかさず言う。
「いや、ちょっと用事があってな、運転手みたいなもんだよ」
うまくごまかしてくれた。
そうこうしているうちに始業ベルが鳴り、思わずほーっと大きなため息をついた。