イジワル同期の恋の手ほどき
* * *
「宇佐原って、いつでも木津さんのナイトだな」
隣の席の泉田が、宇佐原にわけ知り顔でささやく。
「いや、ほんとなんですよ、昨日はふたりで……」
「いいよ、別に疑ってるわけじゃないから。でも、木津さんはまだ気づいてないみたいだけどね」
泉田が意味深に微笑む。
「え?」
宇佐原は泉田の真意をはかりかねて問い返したが、それには答えず、笑顔でつけ加える。
「木津さんって、〝親友〟思いだよね。さっき、最後まで宇佐原の名前出さずに、がんばってたよ」
慌ててオフィスを飛び出す宇佐原を泉田が優しく微笑んで見ていた。
* * *
「やっぱりここか」
サンルームになっている中庭で観葉植物の前でしゃがんでいると、背中に声を掛けられて、慌てて立ち上がる。
「おまえ、嫌なことあると、いっつもここだな」
「水やるの、忘れてたから」
そう言って、じょうろを持ち上げると、宇佐原がため息をついた。
「やめろよ、俺の前で強がるの」
やっぱり宇佐原には嘘がつけない。
「悪かったな、さっき、席はずしてて」
「どうして、宇佐原が謝るの?」
「困ってたんだろ」
「それはそうだけど……」
「俺の名前出したら良かったのに。なんで黙ってた?」
しばらく答えに迷っているのを宇佐原はじっと待ってくれている。
その言葉を口にすると事実になってしまいそうで、なかなか言葉が出ない。
「好きな人にバレたら、困ると思って……」
しぼり出すような声になった。
「え?」
宇佐原は意味がわからないといった様子で、聞き返す。
「もしかして、会社の人なのかなって、思ったから……」
宇佐原はしばらく怪訝な顔をしていたけれど、はっとしたように口を開いた。
「俺のために黙っててくれたんだな。でも、そんなこと気にしなくていいから。俺はおまえのほうが大事だ」
ぽんと優しく頭に手をのせられて、心臓がドキンと音を立てる。
照れくさくなって、慌てて植木鉢に水をやろうと、宇佐原に背を向けた。
「おい、それ以上かけたら、根腐れ起こすぞ」
隣にしゃがんだ宇佐原が優しく微笑んで、私からじょうろを取り上げる。
植木鉢の下からは、水があふれていた。
「あっ……」
「ほら、戻るぞ」
じょうろを用具入れにしまいに行った宇佐原と並んでオフィスに戻る。
こういうのも見られたら困るのかな、これまで気にしたこともなかった周りの視線がやけに気になった。