イジワル同期の恋の手ほどき

昼休み、給湯室へ行こうとして、ぎくりと足を止める。
廊下の隅で、宇佐原にお弁当を渡している女性社員がいた。
たしか、今年総務課に入った子だ。
宇佐原は照れたように笑っている。その姿を見て、胸がチクリと痛んだ。

あの子のお弁当を受け取るのだろうか。
宇佐原が昨日言っていたのはあの子のこと?

結果を見届けるのが怖くて、足早に立ち去り、席に戻ってからも、ひとり悶々としていた。
今日はいつもの定食屋に行かず、コンビニで買ってきたパンとコーヒーで、手早く昼食をすませて、仕事に取りかかる。
残業しなくてすむように、朝からいつもの倍速で脇目もふらずに業務を片づけてきた。

「おい、今日は昼飯どした?」

昼休憩から戻った宇佐原に声を掛けられたときも、パソコンから目を離さずに答える。

「ちょっと、急ぎの仕事があって」 

″あのお弁当おいしかった? かわいい子に作ってもらえて、うれしいでしょ″

これまでだったら普通に言えるはずの軽口が出てこない。
答えを聞くのが怖い。
さっきみたいにあんな照れた笑顔を見せられたら、とても平常心じゃいられない気がする。

練習に付き合って、試食しているお弁当と愛情の込もったお弁当、どちらがうれしいかは一目瞭然。
これまで練習台になってもらうことで、宇佐原のチャンスを邪魔していたのかもしれない。
宇佐原にそういう人がいるなら、自分は身を引かなきゃ―――。

そう決心して、仕事中も宇佐原に話し掛けられそうになると、さっと席を立って、極力会話を避けていた。
宇佐原はずっと私と話したそうだったけど、気づかないふりをしていた。
今、宇佐原とまともに会話できる自信がない。
いろんなことをぶちまけてしまいそうで……。
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