イジワル同期の恋の手ほどき

 * * *

その頃、私は泉田さんに先導されるまま、ぼんやりと駅まで歩いていた。
いつもこの道は、宇佐原と歩いているのに、今日は隣に宇佐原はいない。
今まで、見慣れた風景なのに、どこか居心地の悪さを感じている自分がいることに気づいた。

泉田さんは駅前のカフェに入り、「先に座ってて」とレジに向かう。
席で待っていると、カフェオレボウルが目の前に置かれた。

「ありがとうございます」

お礼を言いながら、ミルクティがよかったなと思っていた。
疲れているから、お砂糖も入れたいけど、わざわざ取りに行くのも煩わしくて、そのまま口にした。
やっぱり物足りない。
宇佐原だったら、なにも言わなくても絶対に取ってきてくれるのにな。
さっきから、宇佐原のことばかり考えている。

「さて、元気がない理由はなに?」

なんと言っていいかわからず、黙っていると、

「喧嘩でもした? 宇佐原と」

優しくうながされ、ぽつりぽつりと話し始める。
恋愛に詳しそうな泉田さんならなにか適切なアドバイスをもらえるんじゃないか、そんな期待から昨日の話を打ち明けていた。

「宇佐原に好きな人がいるらしいんです」

「へえ」

泉田さんの反応が薄い。
もしかして、本人からなにか聞いているのだろうか。

「それで、今までみたいに近くにいたら迷惑かけると思って」

「ふーん、だから、あんなふうにあからさまに避けてるんだ」

「はい」と答えながら、自分の行動がばれていたことに赤面してしまう。

「あのさあ、彼の好きな人に、本当に心あたりないの?」

「えっ? 泉田さん、知ってるんですか?」

驚いて聞き返した。

「まあね」

泉田さんはやっぱりなというような、あきれた様子で私の鞄を指さす。

「出なくていいの? さっきから鳴ってるでしょ電話?」

「大丈夫です」

「出たほうがいい。緊急の用件かもしれないし」

そう言われて、鞄からスマホを取り出すと、着信画面に表示されるのは、宇佐原の名前。
通話ボタンを押そうか迷っていると、泉田さんにすばやくスマホを奪い取られた。

「あっ」

泉田さんがなんで、私の電話に出るの?

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