イジワル同期の恋の手ほどき
宇佐原が連れてきたのは、バラ園があることで有名な会社近くの公園だった。
バラのアーチの下にあるベンチにうながされるままに座って、やっと宇佐原がしゃべった。
「なんで、先に帰るんだよ」
ギクッとする。
「今日はちょっと予定があって」
なんとかごまかさないと―――。
「なんの予定だ、泉田さんと飲みに行く約束でもしていたのか?」
「えっと……」
泉田さんと会ったのはたまたまで、別に約束していたわけじゃない。
返事に迷い、視線が泳いでしまう。
「バーカ、嘘つくの下手なくせに、慣れないことするな。もともと予定なんかなかったんだろ。なんで泉田さんといたんだ」
やっぱり宇佐原には嘘がつけない。
泉田さんとなにかあると誤解されるのは絶対に嫌だ。
「それは、泉田さんが話聞いてくれるって言うから……」
「話って? 俺じゃダメなのか? 俺には相談できないことなのかよ」
宇佐原が悲愴な表情で言うから、切なくなる。
「なんで俺のこと避けるんだよ? 俺、なんかしたか?」
「宇佐原は何も悪くないよ」
きっぱり言う。
「でも、でも、ダメなの。宇佐原といたら……」
どうしてもその先が言えず、唇を噛みしめて下を向く。
「俺と噂になるのが、そんなに嫌か?」
宇佐原の切ない声に、はっと顔を上げて叫んだ。
「違うよ」
「じゃあ、なんだ? 何を悩んでる?」
答えられずに黙ってしまう。
「泉田さんに、朝帰りの話、聞かれたからか? 心配するな、おまえの口の固さを褒めてたぞ」
今、そんなことを聞かされても、ちっともうれしくなかった。
「宇佐原に迷惑かけたくない」
やっと、しぼり出した言葉に、宇佐原がはっとした。
「迷惑ってなんのことだ?」
「私と朝帰りとか……」
宇佐原がほーっと息を吐くと、その表情がふっと和らいだ。
「なんだよ、そんなこと気にしてたのか? 心配するな、俺の信頼は厚いから、そんなことじゃ揺らがないんだ」
女友達との朝帰りを許す、それほど理解ある彼女なんているわけない。
「でも、いい気はしないよ、きっと。だから、やめた方がいいと思って」
「やめるって、何をだ?」
宇佐原の冷やかな声に私の緊張はピークに達していた。
「一緒に帰ったりとか、お昼食べに行ったりとか……」
「ふーん? それで、今日一日、あんな態度だったってわけか」
宇佐原の尖った声にびくっとする。