イジワル同期の恋の手ほどき
「俺はやめるつもりないから」
「えっ?」
「そんな理由なら、おまえから離れるつもりはない」
「でも……」
「言いたいやつには、なんとでも言わせておけばいいんだ。俺はおまえが愛想つかすまで、そばにいるからな」
宇佐原の言葉に目を見張る。
今のはなんだか告白みたいに聞こえたけど、まさかそんなわけないよね。
「修業もまだまだだしな」
宇佐原が顎をなでながら、上目遣いに見る。
それは、なにかいたずらを思いついた時に宇佐原がよくする表情だった。
続く宇佐原の言葉に、私は一気に現実に引き戻された。
「次は、夕食だな」
「えっ? この前、合格点くれたんじゃないの?」
目を丸くして聞き返す。
「弁当はな。でも、弁当だけでいいのか? 親しくなったら、次は手料理だろ」
「それは、そうだけど…。でも、朝からお弁当ふたつ作っていくなんて、絶対に無理だよ」
むきになって言い張ると、宇佐原がとんでもないことを言った。
「バッカだなあ。誰が作ってこいって言ったよ。俺んちで作れば、いいじゃん」
「へ?」
それは、いったいどういう意味?
頭が目まぐるしくあれこれ考えるけれども、答えが出ない。
「あれ? もしかして、心配してるのか? 俺になにかされるんじゃないかとか?」
挑発ともとれる宇佐原の言葉に、反射的に答えていた。
「そんなわけ、ないじゃない!」
「だったら、問題ないだろ。今日から、俺んちで、実践だ」
しまった、また宇佐原のペースに巻き込まれて、つい言ってしまった。
夕食なんて、ほんとに作れるの?
宇佐原の口もとが得意気に持ち上がっていることに、私は気づいていなかった。