イジワル同期の恋の手ほどき

ダークブラウンの大きなダイニングテーブルに次々と、並んでいくおかずに、少しずつ、冷静さを取り戻していた。

〝さんまの塩焼き〟は大根おろしとすだちを添えて、〝ほうれん草のおひたし〟には高級鰹節、〝ごま豆腐〟には生の山葵をすりおろして、〝わかめと卵の味噌汁〟は出汁から作った。
ザ・和食の定番メニュー。

どうよ、完璧。
これで文句、言えないでしょ?

自作料理の出来栄えにうんとうなずくと、洗面所に向かって声をかけた。

「できたよ~」

「今行く」と宇佐原が答える。

ひとり暮らしが長いとこういうやり取りすら新鮮に感じる。
食卓に並んだおかずを見て、宇佐原の顔がほころんだ。

「おお、やるじゃん。短時間で、なかなか手際いいな」

宇佐原が箸をつけるのを、じっと見守る。

「うん、おいしい。これもいける」

宇佐原はぱくぱくと食べてくれた。

「和食って、ほっとするよな。やっぱり日本人だしな。薬味も最高、だしもちゃんと取ったんだな」

料理はひと手間で印象ががらりと変わる。宇佐原の講評に、ほっと胸をなで下ろしていた。

「ねえ、合格点でしょ?」

期待して答えを待っているのに、宇佐原の評価は。

「そうだなあ、味は問題ないけど、料理の選択、根本的に変えた方がよくないか?」

思わずムッとして、ついきつい口調になるのを止められない。

「根本的にって、どういう意味よ?」

「初めての手料理なんだから、同じ手間かけるなら、もっとインパクトのある料理がいいんじゃないか」

宇佐原は真面目にコメントしてくれているようで、あながち的外れな意見とも言えなかった。

「あんまり張りきってるって思われるのもなんだから、無難に攻めてみたんだけど」

私の意見に軽くうなずきながら、宇佐原は続ける。

「悪くないよ。でも、ベタだけど、ハンバーグとかオムライスとか、万人受けするもので、『へえっ』って思わせたほうが、ポイントは高い。男はもれなく、お子様ランチ系好きだしな」

「宇佐原も好きなの?」

「ああ、行きつけのハンバーグ店あるから、今度、敵情視察に行くか?」

「プロの味に叶うわけないでしょ」

「それが不思議だけど、手作りってだけで、十点は基礎点アップするから安心しろ」

「わかった。じゃあ今度は、洋食にするわよ」

しぶしぶ、宇佐原の意見を取り入れることに同意する。


「よし、明日の晩な」

こともなげに言う宇佐原に、思わず声が尖る。

「ちょっと、明日も?」

「そうだよ。なにか問題でも?」

これは宇佐原の挑発だとわかっているのに、反射的に答えてしまう。

「やるわよ。やればいいんでしょ」

こうなったら、とことんやってやる。
絶対に宇佐原をうならせる料理を作るまで。
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