イジワル同期の恋の手ほどき
宇佐原がちらりとこちらを見た。
「なあ、弁当の話、真剣に考えてみろよ」
聞かなかったことにしようと放置していた話題を蒸し返されて、思わずため息をついた。
宇佐原の好みが、繊細で優しい泉田さんにも通用するとでも思ってるの?
そんな言葉をどうにかのみ込んだけれど、まるで心の声が聞こえたみたいに、宇佐原がたたみかける。
「男は、そういうのに弱いんだって」
そう言われると言葉が出なくて、黙り込んでいると、ちらっと視線を送った宇佐原が、おもしろそうに微笑む。
私はその視線から逃れるように窓の外を見た。
「でも私、お弁当作りなんて、自信ないし……」
いつになく弱気な発言を、はなから予想していたのか、「だろうな」と宇佐原が大きくうなずいた。
「いつも昼飯は、定食屋だもんな」
私たちはほぼ毎日、職場近くにある定食屋に通っている。
年配の女性が一人で切り盛りしている小さなお店で、旬の食材を使った家庭料理が、毎日通っても飽きさせない。
「いきなりお弁当なんて、ハードル高いよ」
すると、にやっと笑いながら、宇佐原がとんでもない言葉をつぶやいた。