イジワル同期の恋の手ほどき
「よし、普段の夕食はこれでOK。次はパーティ料理だな」
「パーティ?」
突然の話についていけずにいた。パーティなんて急に言われてもあまりなじみがない。
たしかにこのおしゃれすぎる部屋でホームパーティをしたら、映えるだろうけれど。
「明日、俺の誕生日なんだ」
宇佐原がそう言ったとき、「またまた」とまったく信じていなかったけれど、鞄から免許証を取り出して見せるものだから、ますます驚く。
「ほら見ろ、十一月七日は俺の誕生日だろ」
「ほんとだ。もちろんお祝いはするよ。でも、パーティ料理なんて作れないよ」
「そう言うと思ってな、買っておいたぞ」
宇佐原が窓際のデスクから持ってきたのは、パーティ料理の入門書だった。
「これ、もしかして自分で買ったの?」
いくらなんでも用意周到すぎる。
「そうだよ、悪いかよ」
「いや、なんか、確信犯だなあと思って」
「それを言うなら、策士と呼んでくれ」
「よく言うよ」
パラパラとページをめくると、ところどころに付箋がつけてある。
「宇佐原、この印は何?」
「ああ、それは俺が作ってほしい料理」
てきぱきと食器を洗いながら、やかんを火にかける宇佐原はやっぱり家事に手慣れている。
昨日も洗うのを手伝おうとしたら、料理を作ってくれたんだから、片付けくらいはすると言って聞かなかった。
「紅茶でいいか?」
「うん」
おしゃれなティポットが用意されるのを見て、思わずキッチンに駆け寄る。
「もしかして、リーフティ?」
「そうだけど、どうかした?」
「いや、宇佐原ってマメだよね」
「そうか?」
「うん」
「さ、あっちで予習してて」
リビングを指さす宇佐原のお言葉に甘えて、ブラウンの革張りのソファに腰を下ろした。
長年使い込まれた革特有の手触りを楽しみながら、テラスに目をやると、ライトアップされた中庭の緑の木々が目に入る。
外観だけでなく内装まで、どこを取ってもうっとりするようなおしゃれなマンション。
上々企業で勤続七年……私たちもそれなりのお給料はもらっている。宇佐原は成績優秀だし。だからといってこんなゴージャスな部屋の家賃を払えるとは思えない。
どうやってやり繰りしているのかと尋ねてみたら、なんとこのマンションは宇佐原家の持ち物件だという。
驚いてぽかんとしていると、宇佐原は照れくさそうに笑って、彼の実家がビルやマンションを経営しているのだと話してくれた。
都心に何軒もマンションを所有しているって、もしかして相当な資産家?
この部屋のあちこちにある間接照明や家具はモダンでスタイリッシュ。
昔からインテリアに凝っていたという宇佐原は、仕事上、人気のインテリアショップを訪れることも多い。
友人であるスタイリストにおすすめを教えてもらったり、好きなデザイナーにセミオーダーしてひとつずつこつこつと集めたものらしい。
宇佐原はどこか身のこなしが優雅だとは思っていたけど、お金持ちを鼻にかけたり、高級品を身につけているわけではなかったから、これまでまったく気づかなかった。
ゆくゆくは自分が継ぐことになる家業のために、この会社を選んで就職したのだと聞いて、ますます宇佐原に対する尊敬の念が強くなった。
普通なら気後れしそうな豪華な部屋なのに、とても居心地がいいのは、宇佐原が愛着を持った物に囲まれて暮らしていて、その家具のひとつひとつに愛情を注いで大切に使っているからなのだと思った。
空間プロデュースって、こういうことなのかも。
宇佐原はやっぱりすごい。
いつも私に新しい世界を教えてくれる。
私の小さな部屋も宇佐原に頼めば、居心地のいい部屋に変えてもらえるだろうか。