イジワル同期の恋の手ほどき
翌日、気もそぞろで仕事をしていた私たちは、定時のチャイムが鳴るとともに席を立つ。
電車の中、用意したメモを宇佐原に見せる。
「このメニューでどうかな」
「おおっ、うまそうだな」
「ほとんど、調理しない物ばっかりだけどね」
デパ地下で、生ハム、ナチュラルチーズ、ローストビーフ、スモークサーモン、野菜のピクルス、バゲットにケーキを買って、野菜は宇佐原の家の最寄りのスーパーで調達する。
帰って二人で野菜をカットしたり、電子レンジで簡単調理をして、買ってきたお惣菜を並べると、ちょっとしたパーティのようになった。
私のおごりで買ったシャンパンは少しだけ高級な物。
グラスに注ぐと、キラキラと輝いて幸せそうにも見える細かい気泡がシュワシュワとはじける。
家にあったキャンドルも持参してともしたら、雰囲気がすっかり変わる。
「お誕生日、おめでとう」
「ありがとう」
シャンパングラスをそっと触れ合わせて乾杯する。
「目移りしそうだな」
「食べきれるかな?」
「残ったら、明日の弁当にするか」
「いや、もう、お弁当はしばらくいい」
宇佐原がやわらかく微笑む。
「そうだ、あの本でひどい目にあったんだからね。泉田さんに見られて、彼氏いるのかって聞かれるし」
「そんなことあったのか」
「もう、顔から火が出るかと思ったよ」
「それは、悪かったな」
三種類作った即席ディップはどれもおいしく、野菜スティックがあっという間になくなった。
短時間でお手軽に用意できるなら、ホームパーティも悪くないかもと思っていた。
「なあ、一昨日、カフェで泉田さんになんて言われたんだ?」
「えっ、今さら聞くの?」
「いいじゃないか、おまえの反応がさ、ちょっと気になって」
「見てたの?」
「見えるだろ、あんな窓際の席で派手にやってたら」
「ああ、あれも消し去りたい過去のひとつだ」
赤面して顔を覆う。
「おい、いいかげん、教えろ」
「話聞くから、部屋に来ないかって誘われたの」
宇佐原はげほっとむせて、慌ててナプキンで口を押さえる。
「それから、朝まで一緒に……とかなんとか」
宇佐原の目がみるみる怒りに燃え始める
「泉田さん、なんであんなこと言ったんだろ? 全然、キャラじゃないのにな」
それを聞いて宇佐原がますます睨むので、首をかしげていると、「いや、なんでもない」と宇佐原が目を逸らした。