イジワル同期の恋の手ほどき

「だったら、俺が試食してやるよ」

「試食?」

思わず、体を起こして、宇佐原の顔を覗き込む。
運転中の横顔からは、表情が読み取れない。

これは、いつもの軽口なの?

私は激しく混乱していた。

「相変わらず、百面相だな、おまえ」

宇佐原がおかしくてたまらないといった感じで、噴き出す。

「えっ、いや、だって、その」

落ち着きなくあちこちに視線をさまよわせてしまう。

「あの、宇佐原って、もしかして、調理師免許とか持ってるの?」

真顔で聞き返すと、とうとう宇佐原がこらえきれずにげらげらと笑いだした。

「んなわけないだろうが。俺は経済学部だって知ってるだろ」

「だって、試食するとか言うから」

少し膨れながら、「じゃあ、料理に詳しいの?」と聞いてみる。

「いいや、どちらかといえば食べる専門だけど?」

だったらどうして、えらそうに試食するなんて言うわけ? ただの素人のくせに。

「もしかして、自信ないのか? 俺の合格点もらう」

その瞬間、自分でも目がつり上がったのがわかった。

「そんなわけないでしょ、やってやろうじゃないの。絶対に100点取ってみせるからね」

私はきっぱりと断言した。

「おお、それは楽しみだな」

宇佐原が窓の外を向いて、にやりと笑ったことに私はまったく気づいていなかった。
ただただ、闘争心に火がついて、やる気だけが体中にみなぎっていた。

こうして、私の〝お弁当修業〟が始まった。
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