イジワル同期の恋の手ほどき
その日の夜、私は宇佐原に言われるままに当面の荷物をまとめて、宇佐原の部屋に越してきた。
「昨日は七年ぶりで、俺も余裕なかったから、今日はじっくり仕切りなおしな」
「じっくり……?」
ぎくりとしていると、ポケットから取り出した紙を手渡される。
「ほら、今日のメニューも考えておいたからな」
開いてみると、″朝まで寝かさないコース″と書かれていた。
くちゃくちゃとその紙を丸めて突き返す。
「当店には、こ、こんなコースはご用意しておりません」
「ここは、注文の多い料理店だから、なんでもありだ」
宇佐原がにやっと笑う。
「あれは、お客が注文するんじゃなくて、お店が注文を出すんでしょ」
「そうだったな。じゃあ、注文聞くよ。ただし、『極甘スイーツコース』か『ガッツリ特盛コース』しか、選べるコースはないけどな」
「私、あんまり食欲ないから、『あっさりコース』か『ダイエットコース』を希望します」
「あっさりコースは、前菜もデザートも省略してメインディッシュだけをじっくり堪能してもらえるコースで、ダイエットコースはカロリー消費するために相当ハードなメニューになるけど、ついてこられるのか」
「わかった、お任せコースにするから」
「いいんだな、後悔するなよ」
なんだか、やけに得意気な宇佐原。
とんでもないものに、捕まってしまったかもしれない……。
こうして、夕食と朝食のみならず、手取り足取り、夜食のレッスンを受けるはめになっている。
メニューは次々に追加され、ついていくのに必死なのに、宇佐原はやけに楽しそうだ。
おまけに、下ごしらえやもう一品などと称して、しょっちゅうあれこれ試食させられている。
このレッスンで合格点をもらえる日は、まだまだ先になりそうだ。