イジワル同期の恋の手ほどき
§ Epilogue §

宇佐原と新しい関係が始まって変わったことがある。
用事のある時にしか送ってこなかったメールがしょっちゅう届くようになった。

【昨日の夜食思い出してる。あれ、激うま。おまえの夜食は、どれでもうまいけどな】

〝旨い〟をわざと平仮名で書くから、〝上手い〟と読みそうになって、『違う違う、そんなわけない』と首を振る。
平安人が恋人と別れた朝に送ったという、〝後朝(きぬぎぬ)の文〟ならぬ、″後朝のメール″だ。

 
また、ある日のメールには、こう書かれていた。

【今日の夜食、ビックリするようなメニュー用意してるからな】

読んだ瞬間、スマホをふせて机に置く。
こんなメール、誰にも見せられない。
そんな行動を見て、隣の席から、月世が顔を見せる。

「美緒、どうかした?」

「なんでもない」

「どうせまた宇佐原からの、ラブラブメールでしょ?」

耳もとでささやかれて、顔を覆う。

「見たの?」

「見なくてもわかるよ、いいねえ、幸せそうで。愛されてる女性は肌がつやつやになるって、ほんとだね」

そう言われて、「それ、都市伝説でしょ?」と自分で肌を触ってみると、クククと月世が笑いだす。

「やっぱり引っかかった、ごちそうさま」

そう言ってにやりと笑われて、真っ赤になる。

「美緒のそういう素直なところ、ほんとかわいいよね。そりゃ、宇佐原もメロメロになるわ」

「もう、やめて」

耳を隠しながら、席を立つ私。
その後を追いかけてくる宇佐原。
そんな私たちを、月世はきっと微笑みながら見守ってくれているに違いない。
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