イジワル同期の恋の手ほどき
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一方、俺は泉田さんからこんな忠告を受けていた。
「宇佐原、木津さんに毎日夜食作らせてるんだって? 注文多くて大変って嘆いてたぞ。ほどほどにしとけよな」
「べ、別に、無理はさせてません」
泉田さんの言葉が別の意味に聞こえて、うっすらと顔を赤らめながら答える。
帰宅してから、慌てて美緒に確認した。
「泉田さんに夜食の話、したのか?」
「うん、聞かれたから、作ってるって答えといた」
即答だったので、嘘ではないらしいが、やっぱり気になる。
「まさか、言ってないよな。メニューとか、その、いろいろ……」
「言えるわけないでしょうが」
きっとにらみ返した美緒が、不安そうに聞き返す
「もしかして、宇佐原は泉田さんに話したの?」
「話せるわけないだろ、美緒のあんな顔やこんな顔を知っていいのは俺だけだ」
その瞬間、美緒がぼっと耳まで赤くなり、くるりと背中を向ける。
こういうところはいつまでも変わらない。
「やっぱり、一家に一台、木津美緒だな」
俺は笑いながら言う。
「私、テレビじゃないんだけど?」
「いや、それ以上だ。見ていて、飽きない。テレビはこたつみたいに暖めてもくれないし、抱き心地もよくないし、おしゃべりだってできない。それに、夜食も作ってくれないしな」
「宇佐原ってさ、見た目とのギャップが激しすぎるんだけど」
「ん? どういう意味だ?」
「こんなに、××××と思わなかった」
耳もとでささやかれ、お腹を抱えて笑い出し、しばらく止まらなくなる。
笑いのツボに入った時の俺の顔は、きゅっとつむった目と目尻にできるしわがかわいいと美緒が言った。
「おまえだって、" 夜食 "嫌いじゃないくせに」
「失礼ね、毎日出されるから、仕方なくお付き合いで食べてるだけだもの」
そう言って、さらに赤くなっている。
なんだかんだ言いながら、俺の夜食を美緒は一度も断ったことがない。
そして、覚えがいいから、料理の腕もめきめきとあげている。
「美緒、こっちおいで」
拗ねている美緒の機嫌をなおすとっておきの方法がある。
こうやって優しく抱きしめて、耳もとでそっとささやくんだ。
「美緒の強がってるところ、めちゃくちゃかわいくて、好き」
ほら、すぐに体の力が抜けて、こうやって全身を委ねてくれる。
「美緒は一生俺のものだから」
そう耳もとでささやいたら、腕の中で身をよじって照れている美緒がかわいくて、ますますぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた。
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