イジワル同期の恋の手ほどき
ある朝、宇佐原に何気ないふうに、すごいことを聞かれた。
「なあ、いつか言ってたよな。俺が選ぶ飲み物にはハズレがないって」
「うん」
「それから、居酒屋で選ぶメニューも食べたい物ばかりだって」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、夜食は? 俺、おまえの食べたい物ちゃんと選べてるか」
「そ、そんなこと、き、聞かないでよ」
あまりに恥ずかしくて、掛け布団に潜り込んで、顔を隠す。
「俺はいつもうまそうに食ってくれるの見ててうれしくなるし、おまえとならなに食ってもうまく感じる」
「か、感想とか、いらないから」
「なんで?」
布団の上から頭をぽんと叩かれた。
「なぁ、俺にも聞かせて。昨日の夜食はどうだった?」
布団から顔を出して言う。
「名コックはおいしかったかなんて、野暮なことは聞かないの。味にむらがあったら、プロじゃないでしょ。食べ終わったお客様の顔を見ればわかるはずよ」
宇佐原が笑いをこらえている。
「〝プロ〟か。腕を認めてもらえて光栄だ」
勢いあまって、かなり恥ずかしいこと言っちゃったよね、私。
頭を抱えている私を見て、宇佐原が顎をなでた。
あのいたずらを思いついた時の表情で。
「だけど、さっきは調理に気を取られて、ちゃんとお客様の顔、見えてなかったから、もう一回作ってみるわ」
そう言って、宇佐原が迫ってくるから慌てて腕を突っ張る。
「わっ、満足しました。お腹いっぱいで、これ以上食べられません」
「デザートは別腹なんだろ、おまえ甘い物、好きだったよな?」
「今、ダイエット中だから、甘い物は控えてるの」
「ふーん。じゃあ、カロリー消費、手伝ってやるよ」
こういう時の宇佐原は子どもみたいに無邪気で、そのくせ大人の男の色気をぷんぷんと漂わせている。
それにしても、宇佐原のとどまるところを知らない食欲は、いつおさまるのだろうか。
本人は、食欲の秋だから仕方ないと言っているが、冬が来たら標準に戻るのかは甚だ疑問だ。