欲しいのに悲しくて
「菜子」
「んっ……」
俯いてしまった私の顎を持ち上げて、大事な物を扱うように優しくキスを落とされる。
甘く響く私の名前を呼ぶ声とその唇で何も考えられなくなれれば良いのに…。
あなたは、その唇で私を夢中にさせて、そしてどん底にも突き落とす。
「愛してるよ…」
そう言ってもう一度だけ唇を軽く私に重ねて微笑んでから出て行った彼に私は何も言えなくて……。
「っ……!」
ドアが閉まった瞬間に涙が溢れた。
何でこんな人生で一番幸せなはずの日に泣いてるの?
愛してる人と結婚出来て
愛してる人に優しくキスされて
愛してる人に愛してるって言われて……
ハッピーな気持ちしか無い筈なのに。
愛してる人と結婚出来れば
愛してる人と繋がれれば
愛してる人に愛してるって言われれば…
幸せになれると思ってた。
不安なんて消えると思ってた。
だけど……