滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

私は袋の中からゆっくりと“夏目屋”と印刷された包装紙に包まれた箱を取り出した。



「何度か久しぶりに見たなぁ、これ」



苦笑いしながらまじまじと眺める私に、実はね。と母親がボソリとか細く呟き出す…。




「最近、お父さん調子悪いのよ」





その言葉に驚いた私は、
目を丸くして母親の顔を見つめた。










…私の実家は、明治時代から伝わる老舗和菓子店だ。

父親が母親の婿養子となって、今のいままで店を守り続けてきた。




店の一番人気の宇治抹茶のカステラは宮内庁に何度も献上された一品で、

父親は全国和菓子協会で数少ない優秀和菓子職と認定されるほどの一流の腕前を持っている。



そんな父親の身に何かあったんだろうか。
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