滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

「お父さん、夏頃に体調崩して病院で検査したら軽い脳梗塞の疑いがあるって言われたのよ」

「え…」





たしかに父親は煙草も吸うし、アルコールも飲む。

だが、本人は病気に対して人一倍気を使っていて、過度な摂取や喫煙はしていなかったはずだ。




朝早くから作業場に立ち続け、
夜深夜まで仕込みやらなんならで毎日忙しそうにしていた父親の背中をずっと見てきた私にとって、



脳梗塞という重い言葉に動揺を隠せなかった。






「今は薬と外来診療、生活習慣を変えて何とか進行は抑えられてるけど…」

「今のところは元気なんでしょ?治るんじゃないの?だって、あくまでも疑いで、確実になったわけじゃないじゃない」

「だってこれから何があるがわからないでしょ?最悪店をたたむとか…」

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