滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
店をたたむということは仕事が無くなるということ。
いくら大人二人だけの生活だけとはいえ、
肝心な収入源が亡くなったら暮らしていけないはずだ。
「お父さん、自分が脳梗塞って知ってから気力なくなっちゃったみたいで、仕事してても心ここに在らずなのよね」
毎日休むことなくやり続けた仕事人間の父親が、
病気を患った途端気力を無くすなんて…。
それは私の知らない場所で両親が抱えている問題を突きつけられた、厳しい現実だった。
「それでね奈緒子に…、聞きたいことがあるんだけど…ね」
母親が私から目線を伏せ、
少し言いにくそうに言葉を告げる。
何処か申し訳なさそうで遠慮がちに。
「ーー今、お付き合いしてる人とかいるの?」