滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
そして扉が閉まり母親はその場に立ったまま私に笑って手を振る。
私も同様に手を振って笑顔で見送り、
新幹線はゆっくり動き始めそのままホームから走り去っていった。
「…ただいまっと」
既に時間は夕刻過ぎでお腹も空いた私は、コンビニで適当にご飯を買ってそのまま家路に着いた。
脱ぎっぱなしのパジャマがほおりなげたままの部屋は、朝の慌ただしさが未だに残っている。
荷物を小さなテーブルに乗せてラグの上に座りガサガサと袋から暖かいお弁当を取り出す。
一Kのこの部屋に住んで早、数年。
一人暮らしも一人の寂しさにも慣れ始めてきた。
誰もいない静まり返った部屋に、
いってきます、ただいまと呟く習慣もついてきた。