滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

カツカツカツ!とヒールの音を響かせながら会社の通路を走る。


つい五分前にらオフィスに着いたら、まだ彼の姿は無く、
同僚に聞くと会議室にいるはずと返ってきた。



部署から会議までは少し距離があるが、

もしかしたらまだプレゼンの途中かもしれない。



長い通路の先に見えた会議室の扉。



そして私は止まることなく、ドアノブに手をかけるーーーー。





「遅れてすみません!」



扉を開けて中に入ると、

そこには物音もしないシーンと静まり返った静寂の空気。




既に会議室には人っ子一人おらず、もぬけの殻となっていたのだ。



「…嘘…」





だってまだ、
まだ十時になって五分しか経ってないじゃない。




プレゼンは十時からのはずだし、

たしかに遅刻はしたけど参加ぐらいは出来るはずなのに…!




力尽きた私はその場にヘナヘナと座り込んでしまった。

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